1. 心理学研究の諸方法
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1. 心理学の多様な世界
1-1. 心理学の2つの特徴
現代心理学の特徴
「行動と心的過程についての科学的学問」(『ヒルガードによる心理学入門(第15版)』)
「生態が示す特定の行動が、どういう条件で発現し、また抑制されるかを、さまざまな実証的データから明らかにして、その分析から、そうした行動を支えている内的過程(こころ)のメカニズムを推論しようとする」(鹿取・杉本・鳥居『心理学(第4版)』)
「実践の科学」
現在の心理学が確立するまでに必要だったこと
1. 心理学を職業とする研究者集団や専門家が、継続して社会に排出される制度的な仕組み(大学や大学院)ができること
2. 心理学特有のパースペクティブやアプローチ、研究法、研究領域が定着していくこと
1-2. 代表的なパースペクティブ
ヒルガードによる心理学入門による心理学のパースペクティブ(psychological perspective)(Hilgard & Atkinson, 2009)
生物学的(biological)パースペクティブ
行動と心的過程の起訴にある神経生物学的過程を特定しようとする
たとえば、脳損傷の患者の顔認識をつかさどる部位を特定する
行動的(behavioral)パースペクティブ
観察可能な行動のほとんどすべてについてを条件づけと強化の産物と考えていく
たとえば、肥満にいたる過食行動を学習の産物と見なして行動変容が可能としていく
認知的(cognitive)パースペクティブ
知覚、記憶、推論、決定、問題解決のような真的過程を研究することによって行動を理解しようとする
精神分析的(psychoanalytic)パースペクティブ
行動は性や攻撃衝動のような無意識の過程に起因するとみなす
主観主義的(subjectivist)パースペクティブ
人間の行動や判断は、その人の知覚された世界によって動かされるとみなす
ゲシュタルト心理学やニュールック心理学を源流としている
有名な研究として、貧富の経済状態の異なる家庭の子どもたちの間では貨幣の大きさの判断が異なるとしたブルーナーらの研究例
これらは心的過程をどんな切り口で見ていくのかという心理学の発展の軌跡
1-3. 代表的な研究領域
ヒルガードによる心理学入門(第15版)では、11領域が紹介されている
生物心理学
認知心理学
社会心理学
パーソナリティ心理学
臨床心理学
カウンセリング心理学
学校心理学
教育心理学
組織心理学
工学心理学
1-4. 研究法
データの収集方法に着目した分類
観察法
実験法
質問紙法
面接法
心理検査法
関係に着目した分類
相関的アプローチ
ある変数とある変数の共変関係を調べる
実験的アプローチ
原因→結果の時系列的な連鎖を明らかにしようとする
データの質的な側面かあるいは量的な側面かに着目した分類
質的研究法
量的研究法
2. 心理学らしさとは
2-1. 科学的方法の追求
研究
「1つの問い(あるいは相互に関連した一連の問い)をし、その問いに対する妥当な解答を得るための体系的な処理を開始する1つの過程」(Meltzoff, 1998)
研究法
研究の体系的な処理
どのような研究上の問いかけ(リサーチ・クエスチョン, research question)をするかによって、データ収集や統計的解析などが定まる
研究法や技法は増え続けている
理由
人間の行動と心的過程を研究するために、科学的な論証の手続きをとったため
心理学が学問として成立するためには、他の学問と比較して独自の心理学研究法を確立することが重要であるとしたため
例えば、「賢い馬ハンス(clever Hans)」は存在するか?というリサーチ・クエスチョン
解答としては、その存在を一例だけ示せばよい
算数の掛け算や割り算をすると、その正解を前脚で数を叩くことによって答える馬がいた
ドイツの心理学者プフングスト(Pfungst, 1907)がまとめたように、この馬ハンスは、質問者の身体の微妙な動きを手がかりに反応していた
オランダのハルトゼーカー(Hartsoeker, N.)という生物学者が描いた顕微鏡で見えたという「ヒトの精子の中の小人」
顕微鏡が世に現れた頃は、初めから精子や卵の中に人間の形をした胎児がいて、その胎児が大きくなっていくのだという、いわゆる前成説が隆盛の時代
この言説の真偽を決めるポイントは、観察の確認手続きの問題
もちろん、この観察結果は、その後に精密な顕微鏡が開発されるにつれて根拠を失った
心理学では信頼性や妥当性の検証手段を持つということが非常に重要である
ミューラー=リエルの錯視(ミュラー・リヤー錯視)
知覚心理学における幾何学的錯視の問題では、心理的な知覚判断と自然科学上の物理量との違いが明らかにされた
内省的な考察ではなく、実験や観察のような検証手段に基づいて、心理学の独自の学問領域を見出すに至った
2-2. 突破口としての研究法:実験法
本格的な心理学のはじまりは、ドイツのライプチッヒ大学でヴィルヘルム・ヴント(Wundt, W.: 1832-1920)が世界で最初に心理学の実験室を開設(1875年)し、1879年に大学から公認された頃だとされる
ただし、ヴントは自身のことを心理学者と規定したわけではなかったらしい(サトウタツヤ, 2011)
心理学の研究対象は意識であるとして、実験的に統制した条件下で、自分自身の意識を観察し分析した
哲学と異なる点
ヴントは、当時の生理学の研究法を心理学へと導入した
これは、現在でも、心理学者が新しい他の学問の研究法を援用して、心的過程の研究を推進していくことと似た面がある
たしかにヴントの後、行動主義、精神分析学、ゲシュタルト心理学、認知革命などといった大きな波が来て、それらが今日の基礎となった
2-3. 研究の広がりと多様性
現代心理学が扱う研究領域は広く、研究方法や技法は多様
感覚心理学、知覚心理学、動物心理学のような分野が残る一方で、脳科学いわゆる機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)などの脳機能イメージング法を用いた最先端の分野にかかわっている心理学者もいる
実際のところ、ある研究法による研究は隆盛の一途をたどる一方で、別の研究法による研究は明らかに衰退している
本書の目的は重要で影響力のある研究法を解説することにある
すべてを網羅するのは困難
心的過程が何なのか、どうすれば調べることができるのかが時代とともに変わってきたから
古い哲学では、人間の精神的な作用が知情意の3分法で説明されたことがある
今日の心理学での扱い
知: 知能や知性あるいは記憶や認知
情: 感情や情動
意: 意志や意欲
扱うことが困難だった研究領域が可能になり、心的過程や行動に関する科学としての心理学が展開されてきた
3. データ収集からみた研究法
3-1. 観察法
観察法は古くから用いられてきた代表的な研究法の一つ
心理学における観察法は19世紀の発達心理学研究にさかのぼり、ドイツ発達心理学の父といわれた生理学者で胎生学者のプライヤー(Preyer, W. T. 1841-1987)の著『子どもの精神:生後1年間の人間の精神発達に関する観察』(1882)にまでたどることができる
プライヤーはダーウィン(Darwin, C.)の進化論の影響を受け、自分の子どもの生後、1000日の全行動と発話の記録をまとめた
この種の伝記的―日誌的な観察研究は、どの部分を観察事項として取り上げるかや観察事実と観察者の意見の混同などについて多くの方法的な不備が指摘されるものの、観察研究としての異議は大きいとされる
扱われた内容は、感覚と情緒の発達、意志の発達、知性の発達
観察法は、乳幼児や人以外の動物など、研究協力を求める相手から言語を利用してデータ収集を得る事ができない時に威力を発揮する
観察データが信頼できる測定値であるため必要なこと
1. データ収集段階の観察訓練
2. 目視による見落としや見誤りを回避するための機器の利用
3. 行動記録の仕方などを洗練化
技術的な改善とパソコンの進歩によって、観察法はめざましい発展を遂げている
3-2. 実験法
自然状態での観察法は諸要因が混在していて因果関係が特定しにくい
そこで、特定の条件下で直接的に原因側の要因が結果に影響を及ぼすかどうかを再現しようと試みることが多い
独立変数
原因側の変数
従属変数
結果側のh根数
剰余変数
排除しておきたい他の要因
実験法も観察法の一部ではある
剰余変数をなるべく排除するには実験室実験が適する
有名なエビングハウスによる記憶実験(Ebbinghaus, 1885)
無意味音節の語を記銘材料として記憶の実験を行った
無意味音節を用いたのは、単語に関する個人的な経験が連想となり想起に影響する可能性を排除するため
実験参加者はエビングハウス1名
記銘材料セットをいくつも作って、自分が全部を覚えるまでの所要時間を測定
20分後にもう一度記銘を繰り返す(再学習法 method of savings)と、約58%の保持率(=節約率)で、約42%が忘却されていた
記銘後1日後には26%の保持率となり、これ以降はそれほど急ではなく下げ止まりになった
条件を統制し、変化を量的に記述できた
3-3. 質問紙法
質問紙法は、知りたい内容を質問文にして紙に印刷し、それを回答者に記入してもらうデータ収集法
直接的に本人に答えてもらうところに特徴があるので、この点で、質問紙調査は、事実確認の実態調査と広義の意識調査に分類することもできる
実態調査
自己申告を求めることになるので、たとえば病気の患者が医師の問診に答えのと似た面がある
観察の代わりに、患者の状態と同じことについて質問して、患者本人から回答を得る
意識調査
主観に当たる部分を直接的に本人に尋ねる方法
心的過程は観察できないことが多いので、本人に回答を求める
一問一答タイプもあるが、一連の質問項目から構成された心理尺度(→10. 心理学的な「ものさし」をつくる)を質問項目として使う事が多い
質問し調査の特徴
大勢の人に一斉に実施できること
統計処理がしやすい
難点
意図的に嘘を書いたとしても見破りにくい
高齢者や子どもには解答がしにくい内容がある
3-4. 面接法
面接法は、相手と直接的に面談して質問に対して言語的に答えてもらう方法
面接は主として2種類
心理臨床面接(相談的面接)
調査的面接
研究法としての面接法は、データ収集という目的のために実施される
面接手法に基づく分類(→6. 「きく」ことによって態度や意見を探る)
構造化面接
質問内容や順序が決まっている場合
非構造化面接(自由面接)
自由度の高い場合
準構造化面接(半構造化面接)
構造化と非構造化の中間
面接の長所
相手の反応を見て質問を変更することができる
こちらが質問した以外にも予想外の回答が得られる
ナラティブ研究も生まれている
これまでたどった個人史を時系列的に物語として再構成する
面接の懸念点
データ収集の客観性
面接場面における双方の相性や先入観によるデータの歪みなど
3-5. 心理検査法
心理検査法では、多くの場合、標準化(standardization)された道具を用いて研究を行う
1. 検査を実施する手続きが定められていること
2. 結果の採点法が定められていて客観性の高いこと
3. 母集団における個人の相対的位置を明らかにすることができること
4. 信頼性、妥当性、実用性などが確保されていること
心理検査
質問紙法によるもの
投映法(投影法)によるもの
科学的に疑問が残されているという批判がある
使用言語の異なる比較文化研究には威力を発揮するとも言われる
作業検査法によるもの
心理臨床的なアプローチでは、心理的な過程の変化をたどることができうるとされる
知的能力に関する信頼性と妥当性の高い検査などでは、全国規模の調査として使われるものも生まれている
→ 2. 研究の発信と目的を考える
#ノート